八ヶ岳連峰の南東斜面に建つ、三角形のグリッドで構成されたプランを持つ音楽堂です。標高約1600mの高地で、10月の後半から最低気温が氷点下となる日もあり、寒厳期では気温が-20℃を下回るほど厳しい環境です。
この音楽堂は、外周部の六角形の柱や壁面には、打ち放しの鉄筋コンクリートが用いられています。工程の関係で冬期も工事を継続しましたが、寒さが厳しい環境では、コンクリートをそのまま打設すると、中の水分が凍ってしまい必要な強度が保てません。そこで、建物全体を覆う覆屋を建設し、コンクリートが固まり十分な強度が出るまで内部を暖め続け、躯体の品質を保ちました。
構造体のコンクリート部分は、スギ板を型枠とした打ち放しです。型枠のスギ板は、コンクリートの表情をつくり出すものですから、節があるきれいなものを選び、石灰で洗い使用しました。また、外周部の六角形の柱も同じようにスギ板型枠の打ち放しで、角がきれいに出るよう建具屋さんに依頼し、加工しました。コンクリート柱を打設する際に、通常、型枠を固定するために使用するセパレータという部品の跡を出さない設計であったため、型枠は家具のようにホンザネ加工で接合し、その周囲を30cmピッチで六角形のクシをつくり、型枠を締めることで固定しました。
バブル時代の真っ只中、プロ職人の確保に大変苦労しました。この地での越冬工事はないと地元の方に言われながらも、12月30日に地下躯体打設を行い1月3日まで採暖養生したのを思い出します。吉村先生はじめ事務所のご指導のもと、六角形平面の異形建物でセパを使用しない柱杉板打ち放しの型枠工、丸太をチョウナで削り在来工法を行う大工、複雑な建具を作る建具工、オリジナル加工の銅板段葺きを行う屋根板金工のエキスパートなど、プロフェッショナルな職人と出会えたことを誇りに思います。