文化財をコンバージョンする

THE FUJIYA GOHONJIN(設計:Plan・Do・See 宮本忠長建築設計事務所)

老舗旅館を結婚式場へ

中央通りに面する西側の外観です。

善光寺へ続く中央通り沿いに建つ江戸時代創業の老舗旅館「藤屋」を、結婚式場とレストランへコンバージョンするプロジェクトです。同時にこの地域一帯のまちづくりの動きの中で、藤屋の庭を回遊できるようなまちの修景も考えることになり、既存部を保存するもの、既存部を生かしつつ補修・修繕をするもの、新しく建てるもの、を整理しながらの施工となりました。

解体しながら適切な施工方法を判断する

内壁の仕上げを剥がしました。
外壁のモルタル補強も建物の内側から行います。

古い建物は解体しないと分からないことが多く、作業を進めながら随時工程を更新していきました。本館は有形登録文化財のため外壁に手を入れられず、すべて内側からの工事となりました。

既存材をできる限り利用して改修する

補修・修繕した部分については多くの既存部材を再利用しています。ホールを改修した1階のTHE BAR 1は、左右の壁のところどころに貼られていた鉄平石を一度剥がし、窓側の壁にまとめました。石が割れないように剥がすこと、貼り直す際に無駄が出ないように石の割り付け方に注意して施工しました。床は既存のままです。最小限の改修にとどめつつも、既存のイメージ刷新を図っています。

THE BAR 1に改修する前の旧ホール。鉄平石が左右の壁に使用されていました。
THE BAR 1。照明も既存のものに赤い傘をつけて再利用しています。

既存構造を補強しながら活用する

3階のTHE DINING 3は、天井を剥がしてみると、屋根架構は木造トラス構造であることが分かりました。そのため、客室として利用していた小部屋を、間仕切りや柱を取り払ってワンルームの宴会場に改修しても構造的には問題がないと判断しました。このように、解体しながら設計者の方と調整を繰り返していきました。

THE DINING 3の施工風景。奥に補強のためのブレースが見えます。
THE DINING 3。天井は既存の架構が現しになっています。

新設部も全体に馴染むように工夫する

1階北側は、テナントとして使われていたため元もと外壁は白壁でしたが、全体に調子を合わせるため、その部分も他と同じ洗い出しとし、エイジング塗装で全体に馴染む色味にしています。同様に新設のチャペルについても、外壁にエイジング塗装を施しています。こうした景観にも関わる工夫は、地域の保存改修事業に長年関わってきた経験から提案しています。

既存のまま保存した本館西側の立面。各部をこの外壁の色味に合わせています。
新設したチャペルの外観。

現場所長からのコメント

歴史的な建物をどこまで残すのか、どこまで壊してよいのか、を判断しながら工事を進めることに苦労しました。改修部分では、既存外壁をいじらずに補強する検討、また既存材を極力再利用しての施工に配慮し、新たに取り付ける材料においても極力既存部分に合わせることを心がけました。